小説

『線は、僕を描く』(著・砥上裕將)水墨で描く一瞬の美 ネタバレ感想

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墨と水。そして筆だけで森羅万象を描きだそうという試み、水墨画。深い喪失の中にあった大学生の青山霜介は、巨匠・篠田湖山と出会い、水墨画の道を歩み始める。湖山の孫娘・千瑛ら同門の先輩をはじめ、素晴らしい絵師との触れ合いを通し、やがて霜介は命の本質へと迫っていく。第59回メフィスト賞受賞作。

bookより

『線は、僕を描く』感想

おもしろさ 
背中を押す 

水墨画を題材にした小説

知らない世界が知れる小説です!

受賞 2019年 ブランチBOOK大賞
第59回  メフィスト賞
2020年 本屋大賞 第3位
第3回未来屋小説大賞 第3位
キノベス!2020 第6位

大学生の青山霜介は、真っ白の中にいました

高校生の時に両親を事故で失い、虚無の中にいました

たまたまバイトに来ていた先で、水墨家巨匠・篠田湖山に見出され

水墨を始めることに、、、、

水墨を通して主人公・青山霜介の心を恢復かいふくしていくお話です

 

水墨を描く描写もあります

描いているところが想像がついきにくい人はマンガもオススメ!

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小説にさらに主人公にさらに設定を加えた物語になっています。
でも大まかは変わっていません!!

主人公・霜介の装いを加えたぐらいです!

映画化

’22年10月21日公開決定!
(’22年3月23日時点情報)

映画『線は、僕を描く』公式HP

ネタバレ

真っ白からはじまった

大学生の青山霜介は、真っ白でした

 

2年前に両親を事故で亡くし、何もかも空っぽになったかのように自身の殻に閉じこもってしまい、何に対しても心が動いていませんでした

両親を亡くした後は、叔父に引き取ってもらいましたが、大学受験もまともに出来ずエスカレター式で今の大学に入学しました

 

 

青山君は大学の友人の古前君にバイトを頼まれ、パネル運びのバイトをしました

バイトを終えて帰る時、カワイイお爺ちゃんに声を掛けられます。それが、日本の水墨画家の篠田湖山先生でした

青山君は湖山先生と一緒にお弁当を食べ、パネルに設置した水墨画を一緒に見てまわりました。青山君は湖山先生に絵がどう見えるか意見を求められ、観るがままに率直な感想を述べました。

その感想に湖山先生は青山君の「モノの見る目」の才能に関心し、弟子にならないかと申し出ました

 

湖山先生の教え

湖山先生は青山君へ水墨画を教えました。

最初に手本を見せて、それから何回も何回も失敗を繰り返しながら描きました。
青山君は何回も失敗しているうちに「落書きをしてた子供」の頃を思い出してました

 

2回目に湖山先生の家に訪れた時は、ひたすら墨をすっていました

すっては、もう一度と要求され

すっては、もう一度と、、、、、

 

最初は真面目にすっていた青山君も途中から惚けながらすっていました

でも合格をもらったすった墨は、その惚けた状態ですった墨でした

自然体で する こと

「力を入れるのは誰もでできる、それこそ初めて筆を持った初心者にだってできる。それはどういうことかというと、すごくまじめだということだ。本当は力を抜くことこそ技術なんだ

力を抜くことこそが技術?そんな言葉は聞いたことがなかった。僕は分からなくなって、
「まじめというのは、よくないことですか?」
と訊ねた。湖山先生は面白い冗談を聞いたかのように笑った。

「いや、まじめというのはね、悪くはないけれど、少なくとも自然じゃない」
「自然じゃない」
「そう。自然じゃない。(中略)」(第一章p83)

 

それを姉弟子の篠田千瑛に言うと変な顔をされました。兄弟子の斉藤湖栖さんも「そんな風に教えられていない」と自身たちと青山君の教え方の違いが湖山先生の青山君への期待値を感じました

 

青山霜介の水墨画

青山君の水墨の線は、兄弟子、姉弟子の目には「悲しい線」「美しいもの」に見えました。

 

青山君は湖山先生の

「水墨というのは森羅万象を描く絵画だ」

「森羅万象というのは、宇宙のことだ。宇宙というのは確かに現象のことだ。現象とは、いまあるこの世界のありのままの現実のことだ。だがね……」

現象とは、外側にしかないものなのか? 心の内側に宇宙はないのか(第二章p216)

の言葉で、これまで見てこれなかった自分の心の内側と向き合います

 

兄弟子の西浜湖峰さんの描いた牡丹の絵には、斉藤さん千瑛にはない確かな「命」を目ました。

何が違うのか。湖山先生の話は心の話ばかりだったことを思い出します。西浜さんはの絵は心のままに描いているのか。心の状態を絵にして表現するのか

それが森羅万象なのか

夏はひたすら、蘭の絵を描いてました

 

 

湖山賞

青山君は湖山先生に見出された時、湖山先生の孫・千瑛と翌年の湖山賞をかけて勝負をしています

 

青山君は最終課題として、

「青山君、これが君の先生だ」

「この菊に教えを請い、描いてみなさい……(中略)」

湖山先生に菊の花を渡されました。

 

青山君は菊を形どれど、「命」を描くことが出来ませんでした

学園祭で見た湖山先生の揮毫会で感じたものを、自分にも描けるか悩んでいた時湖山先生が入院したと連絡をもらい、、、、

でもそれは杞憂の出来事でした

 

病室で湖山先生は、青山君へ本心を打ち明けます

どうして声をかけたのか

あの日の青山君にかつての自分を見たことを、そして自分が与えられたことを青山君へしてあげたかったことを、、、、

 

青山君は湖山先生の告白に、初めから自分を見ていてくれたことに涙を流します。真っ白な虚無の中にいた青山君に「生きること」を教えてくれていたことに気づきます

 

 

青山君は病院の帰り道、送ってくれた千瑛に頼んで両親と住んでいた家に向かいます。

両親と住んでいた家で菊を眺めることで、両親への思いを描くことができるのではと思ったのです

 

 

青山君は、公募展の湖山賞をかけて「菊」を描きました

心のままに、思いのままに、青山霜介の「菊」を描きました

 

湖山賞すら出るのが珍しく、そのさらに珍しい翠山賞を受賞しました

 

湖山先生と出会い、1年をかけて、青山君の心は恢復

『線は、僕を描く』素敵な一文

【随時更新中】ワタシの一行 お気に入りの一行 と 一冊私の一行 公式ホームページ 2013年 本屋さんのイベントの一角で「ワタシの一行」で選ばれた本が平積みになってました ...

才能とは

ごく自然にそこにあるもの

「才能かあ……。いや、いや、違いますよ、青山君。きっと違う。才能はね、この煙みたいなものですよ
「タバコの煙ですか?」
そう。気づくと、ごく自然にそこにあって、呼吸しているものですよ。ふだん当たり前にやっていることの中に、才能はあるんですよ(第一章 p15)

青山君が設置のバイトで兄弟子になる西浜さんと日本の絵師について話している場面です

過去の絵師の中には40代から絵師になり、歴史に名を残した人もいるみたく、青山君は「才能があるから、40代からでも注目されたのでは?」と西浜さんに質問します

でも西浜さんはその質問を否定しました。『才能』とは『当たり前にやっていることの中にある』とあらためたのです

 

一種の才能や、突出した実力の無さに、虚無感を感じて自信が無くなりモチベーションも下がってしまうこともある

努力で補えないものかもしれない

でもその「ごくありふれた生活の中に才能がある」と勇気のもらえる言葉でした

 

「できることが目的じゃないよ。やってみることが目的なんだ」

湖山先生が青山君に水墨を勧める時に言った言葉です

「できることが目的じゃないよ。やってみることが目的なんだ」
と言った湖山先生の言葉がふいに胸によみがえった。

湖山先生はあのとき、とてもたいせつなことを教えてくれていたのだ。今いる場所から、想像もつかない場所にたどり着くためには、とにかく歩き出さなければならない。自分の視野や想像の外側にある場所にたどり着くためには、歩き出して、何度も立ち止まって考えて、進み続けなければならない。(第四章 p321)

そしてその言葉は、第四章に繋がっていると思いました

 

「新しいことを始める」

それは水墨で、線を描くように勇気のいることです

線を描き始める。作品を創り上げること

絵の具のようにはいかない

「一線を描く勇気」「一歩を踏み出す勇気」

 

それを「やってみること」。それはとても簡単で難しいこと

進学、部活、サークル、社会、会社、転職、習い事

始めることで、やめなければならないこともある

そこに、二の足を踏んでしまうこともあるかもしれない

 

「新しいことを始める」「二の足を踏んでいる人」に読んでほしいと思いました

 

 

一瞬の美

いつか湖山先生は「我々の手は現象を追うには遅すぎる」と言っていました

たった一輪の菊でさえ、もう二度と同じ菊に巡り会うことはないのだ。たった一瞬ここにあって二度と巡り会うこともなく、枯れて、失われていく。あるとき、ふいにそこにいて、次の瞬間には引き止めることさえできずに消えていく。(第四章 p366)

ものの「命」は一瞬

花の、枯れるまでの現象の流れは人間に比べて短く、刻々と命を刻んでいる

 

それを一瞬も見逃さないことはできない

書き手の、絵師の中の内なる宇宙を筆に乗せてあらわす

 

とても難しいことなのに納得してしまう

でも植物、動物だけでなく

人間の日々の中に「一瞬の美」があると思いました

 

水墨画 用語

  • 水墨画水暈墨章すいうんぼくしょうという言葉が元。水をぼかして墨でつづるの意味。
  • 調墨ちょうぼく:墨の濃さを調節すること
  • 直筆ちょくひつ:筆を立てて、まっすぐ線を引く
  • 逆筆ぎゃくひつ:線を引きたい方向の逆に、いったん筆を進めてから戻す
  • 割筆かっぴつ:かすれた線を出すため、筆先を割って描く
  • 運筆うんひつ:筆運びの全般を指す
  • 皴法しゅんぽう:岩肌を描く技法
  • 心字点しんじてん:絵の全体の調子を整えるために打つ点
  • 四君子しくんし:初心者の練習課題。蘭、竹、梅、菊を指す
  • 花木画かきが:花や草木の絵
  • 落款らっかん:作品の完成時に押す印
  • 雅号がごう:画家としての名前
  • 梅皿うめざら:濃度の違う墨を作るパレット
  • 水差し:硯に水を差すための道具
  • 大筆:大きな面を描くときに使う筆
  • 付立筆つけたてふで:水墨画の主役となる筆
  • :画仙紙、麻紙、こうぞ紙など
  • すずり:墨をするための道具
  • :水を差した硯でする
  • 筆洗ひっせん:筆を洗うための道具

 

おわりに

背中を押されるお話です

話を書く中で、水墨画をするのは「勇気」が必要と出てきます
その中でも、第四章の言葉は

「できることが目的じゃないよ。やってみることが目的なんだ」
と言った湖山先生の言葉がふいに胸によみがえった。

湖山先生はあのとき、とてもたいせつなことを教えてくれていたのだ。今いる場所から、想像もつかない場所にたどり着くためには、とにかく歩き出さなければならない。自分の視野や想像の外側にある場所にたどり着くためには、歩き出して、何度も立ち止まって考えて、進み続けなければならない。(第四章 p321)

「線を描く勇気」にもつながるモノだと思いました

 

とても好きな本、言葉と出会えました

背中を押されたい人におすすめの一冊です